ほしいぬ

書いたり、詠んだり。

失い、続ける物語

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*「鬼滅の刃」映画、原作、アニメーションについての感想です。内容に触れますのでこれからお楽しみになる方は読まないでください。

 

先日、映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」を観てきました。息を呑み、鳥肌が立ち、たくさん涙を流しました。素晴らしい作品でした。

できれば何度も劇場に足を運んで観たいです。

 

鬼滅の刃、わたしは今年に入ってからNetflixでアニメーションを観て、すぐ原作のコミックスを買い、コミックスの続きを読みたくてジャンプ本誌も買いました。いい歳をしたオバサンが毎週月曜日が来るのを楽しみにコンビニへ通いました。

今もグッズを買ったり、pixivでイラストや二次創作を読んだり、著者のスピンオフ編や著者ではない方が書いた煉獄外伝が掲載されたジャンプを購入したりして楽しんでいます。

 

コロナ禍と家庭の事情で、2020年は辛い年でした。泣きたかったが泣いてもいられず日々もがき、できることを精一杯して気づけば11月。

そんな人は多いのではないでしょうか。

そんな中、鬼滅の刃は喜びをくれる作品でした。作品に触れ笑い涙することで、わたしの心は健やかでいられた気がします。

今この時代にこの作品が生み出され世に送り出され、沢山の人に受け入れられたことは幸せだと思います。どうしてここまで魅力を感じているのか、胸に響くのか、わたしなりに考えてみたいと思います。

 

鬼滅の刃」は明るいか暗いかと言われたら、どちらかといえば暗い作品だと思います。

個性的で生き生きとしたキャラクター、ギャグも随所にありますが、根底を流れるのは、失ったかけがえのない人々とかけがえのない日々への悲しみです。

失ったものは余りにも大きいのですが、その悲しみを抱えながら、悲しみとともに、助け合って、生きていく物語です。

 

鬼滅の刃の世界では、容赦なく人を襲って食う鬼が跋扈し、貧富の差も激しく、人々は日々の暮らしを突然鬼に奪われる恐怖や怒り、悲しみ、諦念を抱えながら生きています。

主人公達は、鬼によって家族を殺され家庭という居場所を失ったり、鬼狩り(鬼殺隊や柱達)に助けられたこと等をきっかけに、鬼と戦う道を選びます。

主人公には鬼にされた生き残りの妹を守り人間に戻したいという強い願いもあります。

主人公達は厳しい鍛錬をし試練を乗り越え鬼殺隊の選抜試験を受け、合格して鬼狩りとなります。

仲間達と友情や信頼関係が生まれ、楽しいこともありますが、基本的に彼らが生きているのは戦場で、常に死という絶対的な別れがあります。もともとの家族や居場所を失っている上に、日々大切な人々を失い続けます。

 

彼らが殺す鬼達も、元は人間です。始祖の鬼から血を分け与えられて鬼となっています。

主人公は鬼達を憎みつつもかつては人であったことを慮り、優しく憐れみを持つ稀有な人物として描かれています。

 

鬼滅の刃は創作物であり架空の世界ですが、現実の世界と共通点があります。

それは、私たちもまた、日々失い続けているという点です。時は流れを止めず、失ったものは帰ることはありません。起きたことは起きてしまったことであり不変です。過去を変えることはできません。

 

戦争、災害、犯罪に遭った人はもとより、日々辛いことに遭わない人はほとんどいないのではないでしょうか。

悲しみに打ちひしがれたことが無い人は僥倖です。ほとんどの人は生きていく上で大切な何かを失い、何らかの悲しい経験をしていると思います。なかでも人との死に別れ、生き別れは、生きていく上で必ず経験します。

ある意味、悲しみこそが、生きているということなのかもしれません。

悲しみを感じるということは、失って悲しい大切な人や物事があるということです。人生が空虚では無いということです。

また、悲しみを感じるということは、喜びや怒りも感じることができるということです。心が生き生きと動いている証です。

 

子供達や若い人達はもとより、さまざまな悲しい経験をした大人ほど、もしかしたら、この作品は響くのかもしれません。それがこの作品が大ヒットしているひとつの理由だと思います。

 

悲しみの部分を強調してきましたが、面白く笑えるシーンも多いですし、熱く命を燃やし、勇気を持って困難に立ち向かい、助け合って生きる登場人物達に励まされる部分も大きいです。

主人公達や敵味方の主要なキャラクターだけでなく、無名の人々に焦点を当て、一人一人の命と人生を大切に扱っているところも素晴らしいです。強さとは何か。弱さとは何か。優れていること、凡庸であることを超えて、本当に大切なことは何か。人は孤独ではない。協力し助け合うことで生まれる何倍もの力。これも作品のテーマです。

 

まさに今この時に、読むべき、観るべき、血の通った温もりのある作品と思います。同時代に生きてこの作品を楽しめてよかった。

映画はエンディングテーマも素晴らしいです。ずっと繰り返し聴いています。わたしは私の日々をこれからも生きていこうと思います。

失っても、悲しくても、続けていこう。

 

好みは人それぞれですが、よかったらぜひ。